初恋を君に


「菊池さん。上条主任と付き合ってるんですか?」


「えっ?」


エレベーターの扉が開き佐山くんは
どうぞと扉を抑えながら促した。


「…ありがとう。何階?」


「5階です。…で付き合ってるんですか?」


「…いや。なんで?」


「聞いてるのは俺ですよ。」


「いや…だから…」


エレベーターは2階を過ぎ3階を示す。


「…なるほど。チャンスはまだあるかもって事ですね?」


「…は?」


表示が4階に変わる。


「またランチ行きましょう。」


佐山くんはにっこり笑い、私の手を取った。


「ちょっ…ちょっと!」


「俺、もう少し頑張りますから。」


そう言うと佐山くんは私の手を口元に
引き寄せてキスを落とした。
手と唇が離れた時、エレベーターの扉が開いた。


「それじゃあ。」


そう言うと佐山くんは軽やかにオフィスへ歩いていった。
呆然としながらただエレベーターの扉が
閉まるのを見ていた。


今の何??
…逃がしてはくれなかった?


くみちゃんの「気をつけて下さい!」という言葉が蘇る。
飲みに行くことを断った理由を聞いてきた時に、大丈夫だと思っていたが…
どうやらそうでもないらしい。
流石に今の言葉と行動で恐らく鈍感な私も気がついた。


と言うか、もう少し頑張ります。って仕事じゃないんだから…


更衣室のロッカーにコートを入れながらそんな事を考えて苦笑いしてしまう。
とりあえず今日の夜にでもご飯のお礼をしつつ、きちんと断るメールをしておこう。

しかし…なんで上条と付き合ってるって思ったのだろう?会社ではそんな素振りは見せていないはずなのに…
同期としては仲がいいから?


そんな事を考えながらオフィスに戻るとくみちゃんが興味深々でこちらに近寄ってきた。午後の始業まで5分を切っていたが、どうでした?うまくかわせました?とくみちゃんが声を潜めて聞いてくる。心配と興味とが半々なのだろう。

小さく首を振って苦笑いしながら、
うーん。と答える。


「文さん?」


「もう少し頑張るって。」


「えっ!?どうするんです?」


「声大きいよ!今日お昼のお礼をしつつ断るわよ。」


「すみませんっ。それなら一安心です。」


ほっとした笑顔を見せるくみちゃんの肩を軽く押し自分の席へと促した。


「まぁね…とにかく午後の仕事片付けましょう。」


「はい!了解です。」


スタスタと自分の席に戻るくみちゃんを見送りながら1つため息をついた。

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