涙の雨と僕の傘
夏休みが終わった。
名瀬とは、少し距離が縮んだように感じている。
お弁当のおかずをめぐんでくれるようになったし。
そうしていると、俺と名瀬が付き合っているという噂が流れ始めたらしいことを、名瀬から聞いた。
噂じゃなく、本当になればいいのに。
名瀬は噂のおかげで、例の浮気彼氏にどういうことか問い詰められたそうだ。
そして、束縛のようなものが始まったと言う。
虫の良い話だ、腹立たしい。
「結果的に良かったね。名瀬のことが気になって、浮気どころじゃないんでしょ」
「う~ん。素直に喜んでいいものか」
「いいんじゃないの。名瀬のことが好きなのは間違いないみたいだし」
俺の方が好きだけどね。
心の中でそう付け足しながら、メロンパンに噛り付く。
「どうだろね。自分のものがとられそうと思って、ちょっと焦ってるってことでしょ? なんかそれ、子どもが普段使ってないおもちゃを、他の子に使われそうになって、途端に魅力的に思えて独占しようとしてるみたいでさ」
なるほど、それは外れていなそうだ。
名瀬は冷静だ。
だから余計、つらくなるんだろう。
「それって結局、〝他の子”がいなくなれば、また元通りそのおもちゃには興味なくなるんだと思う」
想像するだけで、吐きそうになるほど腹が立つ。
そんな男、はやく捨ててやれ。
そして俺を選べばいい。
絶対、名瀬を泣かせたりしないから。
俺のそういう気持ちを、どうしたらもっと、名瀬に伝えられるだろう。
言葉にできないのがもどかしい。
言葉にしても、意味がないのももどかしい。