彼女のことは俺が守る【完全版】
 淡々と手続きを終わらせて、私は鍵を返した。


 私がマンションに行くと不動産を介して行った手続きは事務的で、一緒に業者の人と確認して、サインを終わらせると鍵を返すだけになっていた。大まかな手続きは雅さんがしてくれていたから、私は立ち会うだけになっている。


 本格的に業者のメンテナンスの入った部屋はもう私が住んでいた痕跡はなく、ここでの優斗との思い出も消えていったように思える。あの時、あんなに辛かったのに時間は確実に私を癒してくれているようだった。胸の痛みが完全に消えたとは言えないけど、この場所に一人でいても大丈夫なくらいにはなっていた。

 
 マンションから出ると不意に思い出したのは携帯の電源を切ったままであったということだった。仕事をしている間は携帯の電源は切っているのを私は忘れていた。電源を付けると浮かんできたのは海斗さんからのメールの着信で、そのメールが来たのは午後の二時で、今から四時間ほど前だった。


『今、撮影が終わったので用意が出来次第帰ってくると思う』


 やっと海斗さんのロケが終わったということを教えてくれるメールだった。この時間からすると、帰ってくるのは明日?


 部屋の掃除は昨日の夜にしていたからいいけど、明日の午後くらいには帰ってくるから、何か食べれるものを用意した方がいいのか、それとも、こっちに戻ってきたら、友達とか仕事関係の人と会ったりするのかもしれないから、無駄なことをしない方がいいのか?


 悩む。
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