キミが欲しい、とキスが言う

「とりあえず話ができる環境にいないとどうにもならないので、近所にいれば出勤前でも捕まえられるかなと思って探してたんです。まさか、隣が空いてるなんて思わなかったから驚きました」


ああ、よりによってなんでこんなタイミングで出てっちゃったのよ、中島さん!


「……ていうか、なんで馬場くん私の家を知ってたの?」


いくら常連とはいえ、住所なんて教えてないわよ?


「橙次さんに聞きました。貸しがいっぱいあるので、言うこと聞かせるのは簡単なんで」


貸しって……なに。
橙次め。個人情報を軽く扱わないでよ。
むくれて見せたら、馬場くんはなぜか私の頭の上の方に視線をずらした。


「ところで、透けてますよ。ちょっと油断し過ぎじゃないですか?」


指をさされて、自分の服装を見直すと、白のTシャツだから確かに下着が透けて見えてる。
慌てて、もらった箱で前を隠した。


「……変態!」

「本当の変態なら黙ってみてます」

「そりゃそうだけど。……もう知らない、じゃあね」

「はい、また」


玄関をくぐろうとしたとき、くくっという笑い声が聞こえて、隣を見る。


「これからよろしく。茜さん」


それは優しそうに微笑むから、私の心臓が、ドクンと大きくはねた。
そして、扉を閉めてもドキドキが収まらない。
私は熱くなる顔を抑えたまま、サンダルが転がっている玄関スペースにしゃがみこんだ。

何なの、馬場くん。
本格的に彼が何を考えているのか分からない。

引っ越しまでしてくるって、本気でストーカーの域に入るんじゃないの。

浅黄に戸締りはちゃんとするように言わなきゃ。
子供に手を出してくることはないだろうけど、気を付けるように越したことはないもんね。



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