キミが欲しい、とキスが言う

「あ、そうだ」


何かを思いついたように、掌に逆のこぶしをのせて頷いた彼は、部屋に入ってしまった。

なんなの? いかにも話途中だった気がするけど、私どうすればいいの?

悩んでいるうちに、彼は再び出てくる。そして、私に平べったい箱を差し出した。


「隣に引っ越してきました馬場です」

「あ、どうも」


真面目に話されたらつい受け取っちゃうけど。
いや、ちょっと待って違うでしょ。色々説明が足りない。


「って、なんで馬場くんがいるのよ」

「だから引っ越してきたんですって」

「いつからよ? 昨日私が仕事に出るまでこの部屋に出入りなんてなかったはず」

「昨日昼番だったんで、その後です。しばらく荷物の運び込みでうるさくなるかもしれませんけど、よろしくお願いします」

「いえ、こちらこそ……って、違う! なんで引っ越してきたのよ」


馬場くんは背が高いから威圧される。
私だって低い方じゃないのに、と精一杯背伸びをして威嚇してみた。


「……昨日、俺、数家に伝言頼んどいたんですけど、そちらにいきませんでした?」

「来たわよ」

「じゃあ聞いたでしょう? 逃げるから追いかけてきたんです」

「追いかけてって」

「キスした翌日から茜さんが来なくなったので、ああ失敗したかなぁと」


そりゃそうでしょ。いきなりキスされたら誰だってビビるのよ。
水商売の女相手なら何でも許されるとか思わないでよね。

< 42 / 241 >

この作品をシェア

pagetop