キミが欲しい、とキスが言う
「あ、そうだ」
何かを思いついたように、掌に逆のこぶしをのせて頷いた彼は、部屋に入ってしまった。
なんなの? いかにも話途中だった気がするけど、私どうすればいいの?
悩んでいるうちに、彼は再び出てくる。そして、私に平べったい箱を差し出した。
「隣に引っ越してきました馬場です」
「あ、どうも」
真面目に話されたらつい受け取っちゃうけど。
いや、ちょっと待って違うでしょ。色々説明が足りない。
「って、なんで馬場くんがいるのよ」
「だから引っ越してきたんですって」
「いつからよ? 昨日私が仕事に出るまでこの部屋に出入りなんてなかったはず」
「昨日昼番だったんで、その後です。しばらく荷物の運び込みでうるさくなるかもしれませんけど、よろしくお願いします」
「いえ、こちらこそ……って、違う! なんで引っ越してきたのよ」
馬場くんは背が高いから威圧される。
私だって低い方じゃないのに、と精一杯背伸びをして威嚇してみた。
「……昨日、俺、数家に伝言頼んどいたんですけど、そちらにいきませんでした?」
「来たわよ」
「じゃあ聞いたでしょう? 逃げるから追いかけてきたんです」
「追いかけてって」
「キスした翌日から茜さんが来なくなったので、ああ失敗したかなぁと」
そりゃそうでしょ。いきなりキスされたら誰だってビビるのよ。
水商売の女相手なら何でも許されるとか思わないでよね。