キミが欲しい、とキスが言う
母が外国人だったというのもあり、家で刺身が出ることはあまりなかった。
ましてや捌いているところなんて、私も見るのは初めてだったから、思わず見入ってしまう。
幸太くんも私と一緒で目を丸くして見つめているけれど、浅黄は内臓が気持ち悪いのか、いつしかうつむいていた。
馬場くんは、骨と頭を鍋に入れ、残りの切り身を刺身用に切っていく。
「茜さん、プラスチックの皿みたいなの無い?」
「えー? 紙皿じゃダメなの?」
「いいけど。水分吸うしな。店で買った時についてくるやつあるでしょ。あれでいいよ」
「でーでも、分別ごみに入れちゃったなぁ」
仕分けているごみの袋を漁っていたら、上から馬場くんが覗き込んでくる。
「あ、これがいい。洗ってくれない?」
「いいわよ」
まな板での作業する馬場くんと、流しで洗い物をする私の距離は近い。
家事って並んでしたら腕とかぶつかりそうになるんだな。
「馬場ちゃん、俺もやってみたい!」
「だめだ。包丁はまだ危ない」
「俺、使ったことあるよ。シイタケ切ったことあるもん」
「魚は難しいんだよ。大根切れるようになってから出直してきな。ほら、幸太んちの分できたぞ」
「ぶー」
幸太くんと馬場くんはすっかり打ち解けたみたい。
時計を見ると十七時を過ぎていたので、「じゃあ帰ろうか?」と聞いてみる。
「俺も一緒に食べたい!」
「でもママ心配するわよ。せっかくいっぱい切ってもらったし、幸太くんのママにも食べてもらいたくない?」
「うん。まあ」
「じゃあ帰ろう。おばちゃん、送っていってあげる」
言い聞かせて帰り支度をさせていると、馬場くんが先ほどアラをいれた鍋に水を入れ始めた。