居場所をください。



「………沖野さんは、結婚されて引退が決まって

今、何が欲しいですか?」


私のその質問に、沖野さんは

笑顔を消した。

だけどまたすぐ優しく微笑んだ。


「沖野美歌じゃない、私と

沖野美歌じゃない私になっても

私の曲を聴いて元気になってくれる人、かな。」


すごく優しい顔をして

だけど、どこか儚げに。


「引退したら私はもうテレビに映りたくない。

過去の影像が流れる分にはいいんだけど

もう追いかけられたくないの。

一般人へと戻りたい。

普通の女性として、あとの人生を楽しみたい。

………そう願ってるくせに

忘れられたくないの。

忘れられたくなくて、忘れたくない。

芸能界に入って、嫌なこととか辛かったこと

いっぱいあったけどさ、

だけどそれでも頑張れたのは

社長だったり、マネージャーさんだったり

ファンのみんなが応援してくれたから。

だからね、また辛い思いをしたときは

みんながいてくれたことを思い出したい。

だからみんなも、もし何かあったときに

また私の歌を思い出して、聴いてくれて

元気になってくれたらなって。

決して一人じゃないことを思い出してほしい。

沖野美歌が引退しても、

みんなが沖野美歌を永遠にしてほしい。

私の刻んできた軌跡は決して消えないって

私は信じてるよ。」


沖野さんは優しく微笑みながらそう言ったけど

目が少し潤んでいて、

私もなんだか泣きそうになった。



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