ピュア・ラブ
「はい、どうしました?」

診察室と書かれた部屋から出て来たのは、若い先生だった。
つけていたマスクを提げ、対応してくれた。
私の顔をじっと見たが、すぐに持っていた紙袋の方に視線を移した。

「凄く怪我をしているんです、死んじゃうかも! すぐに診察してもらえませんか?」
「はい、こちらへどうぞ」

獣医が出てきた診察室に通されると、袋からバスタオルごと猫をとりだした。

「よしよし、もう大丈夫だ。どこかで拾われたんですか?」
「はい」

診療用のゴム手袋をはめて、猫の目、体の傷、尻とあらゆるところを見て行く。
私は、診てもらっていることで、やっとホッとした。助かる。そう思った。
動物様の小さな診察台で力なくいる猫を明るい所で初めて見ると、拾った時よりも酷い傷があることに気が付く。

「ネコちゃん……」

私は、絶句と言う言葉を初めて思い浮かべた。
口元に両手を持って行き、声が出てしまいそうになるのを我慢する。

「色々な病気の検査をしないといけませんが、鳴いているし大丈夫。今日は入院しましょう。傷はカラスに突かれたのでしょう。カラスは子猫をおもちゃと思って攻撃してしまうのです。子猫が運ばれてくるときは大抵そういう理由です。傷は治るまで投薬と塗り薬が必要ですが、あとの病気は、血液検査をしないとわかりません」
「は、い」

カラスか。憎きカラス。そう言えば、猫がいたところは、アパートのゴミ集積場だ。

「多分、お腹に虫もいるでしょうし、ノミもいます。傷の状態で退治をしましょう。沁みちゃうと可哀想ですから」
「よかった……助かるんですね、命」
「大丈夫。あ、でもこれだけは……血液検査でわかる猫にある白血病ウイルスがあります。これは、なかなかやっかいです。捨て猫に多いので、それだけは安心できません」
「いいです。少しでも命が長らえれば。いい治療があればなんでもします」
「わかりました。じゃあ、猫ちゃんは入院で、預かってしまいますね。ほら、バイバイして。じゃあ、待合室でお待ちください」
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