ピュア・ラブ
『一緒に参加できると思っていた文化祭。君は、いつも裏方で接点を結ぶことが出来なかった』

クラスで、お揃いのTシャツを作り、一団結をして成功させようと、実行委員が頑張っていた。くだらないとも思わなかったが、そこまで燃える物があって羨ましいと思った。私は、冷めていた。

『いつも一人で誰ともしゃべらず、交わらない君が、気になって仕方がなかった』
『二年になると、僕は一人でいる君を理解したいと思うようになった』
『そうは思ったけど、君と友達になりたいと思ったし、作ってやりたいと思った。でもやり方が分からなかった』

友達はいらない。いて何の得があるのだろう。でも、それは私の望みじゃなかったはずだ。私と、友達になったりしたら、どうなるか。それが怖かったのだ。まだ子供の頃はいい。でも、金の匂いに敏感なあの二人は、きっと私に友達がいたら、いいカモと思うに決まっている。
それを避ける為に私は、一人になった。

『だけど、それは僕のエゴだとわかった』

この時、初めて時間が戻せるならと思った。
私には、過去も未来もない。今しかなかった。望みを持ってはいけない。それが私だった。
こうして毎月はがきを送ってくれる橘君は、寂しくないだろうか。落ち込んだりしていないだろうか。北海道は夏が短い。このはがきを書いたときはもう雪が降っているかもしれない。

「モモ、健康診断よ」

年に一度健康診断を受けてと橘君に言われていた。だけど、今年の夏は猛暑で、とにかく家から出られなかった。
夏に健診予定だったけれど、少し遅くなった今日、連れていくことにする。
健康なモモはすっかり病院から遠のいた。
寒く無いようにとバスタオルで包み、自転車で病院に向かう。

「こんにちは」
「こんにちは、モモちゃんは元気ですか?」
「はい、お陰様で。今日は健康診断をお願いします」
「はい」

いつもと変わらない受付の女性は、にこやかに話しかけてきた。
あの時、とても困った顔をさせてしまった。彼女には笑顔がやっぱりにあう。
待合室は、犬とリードで繋がれ、猫は怯えた様子でカゴに入っていた。
人間と同じで、猫もイヌも病院は嫌いだ。

「黒川さん」

診察室から名前が呼ばれた。お父さん先生だ。当然だ。橘君はいないのだから。

「はい」

モモのカゴを持って、診察室にはいる。

「こんにちは、どうかな? モモちゃんは元気かな?」
「はい、何とか。でも、ちょっと太り気味でしょうか?」

モモは日増しに大きくなり、甘やかしてばかりの私は、ついおやつをあげてしまう。
診察台で体重を測ると、4キロちょっとあった。

「う~ん、そんなに気にするほどじゃないけど、お腹がふとっちょさんだね」
「はい」

モモは、スタイルが良かったはずなのだが、大きくなるにつれ、お腹周りが中年太りのおじさんの様になってしまっていた。

「避妊手術をすると、肥満になりやすいから、運動とご飯を考えてね」
「はい、わかりました」

お父さん先生は、順に色々と検査をしてくれていた。
すると、先生はモモをあやしながら、橘君の事を話し始めた。
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