ピュア・ラブ
「いい? こうして」

そう言いながら、モモをうつぶせにして、上から覆いかぶさるようにモモの身体を覆った。
次に、前足の肉球をつぶすと、爪が飛び出た。

「うっすらと、血管が見えるだろ? そこまでは切ってもいいから」
「うん」

私は、乗り出して爪を切る様子を観察した。
パチン、パチンと軽快に切っていき、モモは暴れることなく、全ての爪を切らせた。

「もともと、猫は足を触られるのが好きじゃない。それに肉球は敏感だ。切れないのも無理はない。遊んだり、抱っこしたりするときに、肉球を触る癖をつけるといい。そうすると、触られることになれて、爪を切らしてくれるようになるよ」

そうなんだ。爪を切ることは対したことではないと思っていたが、生き物は奥が深い。

「それでもダメな場合は……ココに来て。一回500円だから」
「ぷっ……」

思わず笑ってしまった。お金を取るのは分かっていたけれど、以外と商売上手だということに、私はおかしくなってしまった。

「黒川……今、笑ったよね……もっと、笑って……」

そう言って、橘君は私の頬を両手で挟んで顔を上に向けた。
正直、びっくりした。
何が起こっているのか理解できない。目の前にあるのは橘君の顔で、その顔は真剣な表情をしていた。
身体が固まって動けなかった。
私は、他人に触られたことがない。
心臓が大きく鼓動を打って、発作でも起こしそうだ。

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