ピュア・ラブ
「どうぞ」
「おじゃまします」

ひんやりとした空気が一緒に入って来た。

「寒かったでしょう?」
「手袋があったからそうでもないよ、ほら」

そう言って、私が贈った手袋をはめていた。
中に招き入れると、クローゼットからハンガーを出して、橘君からジャケットを受けとる。

「炬燵に入って、いま、コーヒーを淹れるわ」
「ありがと」

コーヒーを淹れながら、私は、まだ台所にあった皿などを片付ける。
クリスマスの時は、気が利かなくていたが、今日は、菓子を適当な器に盛り付けた。
いつものカップにコーヒーを淹れると、トレイに乗せて持って行く。

「お菓子くらいしかないの。ごめんね」
「おう、菓子好きだ」
「そう、良かった」
「黒川も好きなの?」
「うん、ずっとお菓子ばっかり食べてるの」
「へえ」

ぱりぱりといい音を出して、橘君は菓子を食べ続けた。

「ご飯は食べてないの?」

あまりの食べっぷりにお腹が空いているのかと思って、そう聞いた。

「食べた」
「そう」

食べていないと言われても、困ったが、私と一緒で菓子が好きなだけのようだ。

「俺もこれ観てた」

テレビの画面をずっと観ていた橘君がそう言った。

「お、モモ、なんだ? 菓子が食いたいのか? ダメ」

いつの間にかテーブルに載っていたモモが、菓子を口に入れる橘君の手をちょいちょいと手を出していた。

「モモの爪、切れる様になった?」
「大変だけど、なんとか」
「まだ平気そうだけど、切っておくよ。黒川の傷が消える様にね。はさみ貸して」

私は、モモ専用のトリミング用品が入っているカゴから、爪切りはさみを出した。
それを橘君に渡す。
さすがは、獣医さんだ。手早く切っている。私の時と違い、モモは大人しく切られている。
診察をしているときの白衣姿じゃないけれど、その姿はとても素敵だ。

「子猫のうちから、まめに爪を切る様にして、一番神経が集まっている足、肉乳を触るようにすると、大人しく切られるようになるから、頑張って」
「どうもありがとう、あ、お金」
「まさか、病院じゃないんだから取らないよ」

そう言って、いつもの笑顔でそう言った。
とぎれとぎれの会話だけど、私はちっとも苦痛じゃなかった。
しゃべらないのも苦痛じゃなかった。
モモを挟んでテレビを観て、菓子をだべる。
そんなまったりとした時間が過ぎて行った。
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