∞1208∞



「キリさん」


あ、ツライ。
ぎゅ、ってなる。
不安定な華奢なヒールが一瞬にして動け無くなる。

その呼び方は、今あたしツライみたい。


今一番会いたい人の呼び方だから?
でも社会人だし飛び出して会いに行けないから?


「…あ、…あー、なんで?あたしの名ま」

「キリさんが俺の教育係らしーんで、
だから挨拶来たらホラ、シンクに頭突っ込んでて、あはは、よろしくお願いします。」


トモとは何もかもが違う、
声も、笑う顔も、髪も全部違う。

だから甘えたくなる、会いたくなる。

トモに、会いたくなる。

本当は辛くて卒倒しそうですよ、って
あたし強くないから、もう怖いし気味悪いし辛いし泣き叫びたいですよ、って

トモにだけ言いたい、会いたい。
無理だから尚更、顔作る自分が苦しい。


「よろしくお願いします。」


早く、早く立ち去らなきゃ。
早くしなきゃ、

涙腺が言うこと聞いてくれなくなる、弱ってるから、

立ち去らなきゃ。


「はい、よろしくです、キリさん。」
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