婚約者は高校生
…なんだけどな。
沙梨は俺にとっては仕事相手の一人でしかないことは変わらない。

迂闊に手を出そうものなら確実にヤケドでは済まされないしな。
まあまず俺にはその気がないし、そもそも付き合うことを了承した覚えなどない。
よって、俺のプライベートに口出しされるいわれなどないのだが。


『私が虫除けになります』


ふといつかの彼女の声が頭の片隅で響く。

いつもならどう角が立たずにかわすか考えるところだが…仮にとはいえ、婚約者がいると言えば諦めるかもしれないな。
さっそく虫除けとして役立ってもらおう。


俺は仕事用の笑顔を貼り付けたまま、口を開く。



「噂をお聞きになったんですね」


「ええ、そうです。でも噂が真実とは限らないじゃないですか」



そうだな。本人に確認するあたり、正しい選択をしているな。いや、ただ信じたくなくて確認しているだけなのか。
まあどちらでもいいが、今回に限っては噂は本当だ。



「確かに。でも噂は本当ですよ」



婚約者がいるとわかればこれ以上俺の周りに来ることはないだろう…と思っていたのだが、それは少々甘かったらしい。

沙梨は肯定の言葉に一瞬驚いた顔をしたあと、ショックを受けたようにうつむき、黙り込んだ。
その間に気まずそうな顔をしたウェイトレスが軽食を運んできたが、沙梨はそのまま動こうとはしない。


さてと。どうしたものかな。昼休みだってそんなに長くはないし、いつまでもこうしているわけにもいかない。

はあ、と内心ため息をつきながら運ばれてきたコーヒーを眺めていると、



「…そんなこと信じられません」



突然地を這うような声が聞こえてきた。


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