魅惑な彼の策略にはまりました
我が社のスタジオは麻布の一の橋交差点近くのテナントビルの1階から3階を間借りしている。
人通りも多く、頭上は首都高が走る大きな交差点から歩いてすぐのところ。

鍵を閉め、連れ立ってエントランスから大通りへ出ると、ひとりの男性が近寄ってきた。

見覚えがあった。

というか、もう私の中では完全に無かったことになっていた男が、親しげに片手をあげた。


「高原さん、久しぶり。近くまで来たから顔を出しちゃったよ」


そこにいたのは、あの浮気男・中根だった。

ぎゃっと思いながら顔に出さないよう努める私。
留美子と育江は勘違いしているようで、意味深にニヤニヤとし始めた。

あー、絶対彼氏か、彼氏候補だって思ってる。
違うんだよ、妻子持ちだって知らずに寝ちゃったワンナイトカーニバル野郎なんだよ。

そんなこと、自分の迂闊さをさらけ出すようで、ここで説明できないけれど。


「すみません、今日はもうスタジオも閉めましたので」


冷静に、というより事務的に言う私は、あくまで仕事関係者としてこの男を扱いたかった。


「そんなぁ。スタジオに用はないですよー」


浮気男がおどけてみせる。いちいち腹がたつ。
< 75 / 111 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop