オフィスにラブは落ちてねぇ!! 2
苛立ちながら自宅に戻った“政弘さん”はシャワーを浴びた後、ソファーに身を沈めてウイスキーの水割りを煽っていた。

普段、自宅では滅多に酒を飲まないが、今頃愛美は健太郎と一緒にいるのだと思うと、飲まずにはいられない気分だった。

(よく考えたら、会おうって言うのも、会いに行くのも、いつも俺だ。)

帰り際には寂しそうにするのに、愛美の方から“会いたい”とか“会いに行っていい?”とか言われた事はない。

自分はいつも愛美と会いたいと思っているけれど、愛美は会えなくても案外平気なのかも知れない。

(なんだこれ…?温度差ってやつか…?)

そもそも始まりは、自分が一方的に愛美を好きで、愛美からは一方的に嫌われていた。

付き合う事になったのも、愛美にとっては押しの強さに負けて仕方なく…という感じだったと思う。

(俺の事好きだって言ってくれたのは、きっと愛美が過去のつらい恋愛に傷付いてたからで…誰かに思いきり優しくして欲しかっただけなのかも…。)

“めちゃくちゃ大事にする”と約束して、これでもかと言うほど目一杯優しくしてきた。

優しく抱きしめる。

優しくキスをする。

愛美を抱く時は苦痛を与えないように、理性を捨てきらず壊れ物を扱うように優しく触れる。

本当は理性も何もかも忘れて、激しく愛美を愛したいと思う事もある。

だけど大切な愛美がいやがる事や怖がる事はしたくないし、何より、そんな事をして嫌われたくない。

(好きだから優しくしたいんじゃなくて、嫌われたくないから優しくしてるだけ…?守りたいのは愛美じゃなくて…自分自身?)


< 42 / 169 >

この作品をシェア

pagetop