オフィスにラブは落ちてねぇ!! 2
さっきから佐藤さんの隣で緒川支部長は、休憩スペースのテーブルを拭いている愛美の後ろ姿を視界の端に映して様子を窺っている。

昨日ひどい捻挫をしたばかりなのに、その歩様はいつもと変わりなく見えた。

(あんなに腫れてたのに…もう足の具合は大丈夫なのか?)

いつもと違う所と言えば、踵のない靴と靴下を履いている事くらいだ。

足首の辺りが膨らんでいるところを見ると、靴下の下には包帯を巻いているのだろう。


「支部長、エステサロンの訪問は午前中でいいですか?」

佐藤さんに尋ねられ、緒川支部長はわざと少し大きめの声で答える。

「そうだな…。10時半頃に支部を出て、エステサロン訪問して…どこかで昼飯食って、そのまま地区に行こう。」

「わかりました。」

「そう言えば…あのエステサロンの近くのパスタ屋がうまいって、サロンのスタッフが言ってたな。行ってみるか?パスタ好きだったろ?」

佐藤さんは顔を上げて、嬉しそうに笑った。

「嬉しいな…。ひろくん、そんな事覚えてくれてるんだ。」

愛美に聞こえないように気を遣ったのか、佐藤さんは小さな声でそう言った。

「よし、じゃあ決まりな。」

緒川支部長が席を立つのと同時に、愛美は布巾を持って支部のオフィスを出ていった。

(愛美…今の、聞こえてたかな?)

「おはようございます。」

「おはよう。」

愛美と入れ替わりに、次々と職員たちが出社して、オフィスは一気に賑やかになった。

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