オフィスにラブは落ちてねぇ!! 2
愛美は給湯室で、必要以上に念入りに布巾を洗っていた。

(さっきのあれなんなの?私へのあてつけ?)

上司と部下と言うよりは、まるで恋人同士の会話のようだった。

そこに深い意味はないのかも知れない。

疑いたくはないけれど、イヤでも耳に入ってくる二人の会話に耐えられなかった。

(もしかして本当に佐藤さんと…?)

布巾を搾る手に力がこもる。

今まで緒川支部長が職員に対してあんな態度を取った事は一度もなかった。

(昨日あんなに健太郎の事で私を責めたくせに…自分だって佐藤さんと…。)

愛美の中で、沸々と怒りがこみ上げてくる。

早く誤解を解いて仲直りしたいと思っていたはずなのに、なんだかすべてがバカらしく思えてきた。

(バカみたい!なんで私がかわいい女になる努力なんてしなきゃいけないの?)


搾った布巾を手に支部に戻ろうとした時。

お節介で有名な第一支部の向井さんが愛美の肩を叩いた。

「菅谷さん、具合はどう?大丈夫なの?」

「ええ…まぁ…。」

(捻挫したくらいで大袈裟だな…。)

向井さんは心配そうに愛美の足元を見る。

「靴下とペタンコの靴はいいけど…制服のスカートだと足元が冷えるでしょう?冷やすのは良くないわよ。」

「そうなんですか?」

(捻挫も冷やすと良くないの?)

「ああ、そうだわ、ちょっと待ってて。」

向井さんは慌てて第一支部のオフィスに飛び込み、膝掛けを持って戻ってきた。

「良かったらこれ使って。私は他にも持ってるから。」

「あ…ありがとうございます…。」

(心配してくれてるのに断るのも悪いから、一応借りておこう。)

愛美は向井さんの過剰な心配ぶりになんとなく違和感を感じながらも、膝掛けを持って支部に戻った。



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