あなたのヒロインではないけれど
「こちらにも見せてくれ」
結城さんの声が聞こえて、氷上さんの手でスケッチブックが開けられる。ドキンドキンと心臓がうるさく鳴って、耐えきれず膝に置いた両手を握りしめた。
ページを捲る乾いた音がしばらく響く。それ以外は物音一つ立たない静寂に、身を固くしてひたすら待った。
「……なるほど」
しばらくして、結城さんが声を出した。
「鵜野さんの着眼点は悪くないと思う。……しかし、子ども向けの玩具市場が縮小気味というのは知ってるね?」
「は、はい……」
子どもの数が減っている以上、子ども向けでシンプル過ぎたり単純なものは売れにくい。従来と同じ価値観ではダメだ……と店長も言ってた。
だから、私は。
「……あの……」
だけど、言葉が詰まって出てこない。これだけ少人数で見知った人たちなのに……胸が塞がったみたいに、声が出てくれなかった。
(ダメだ……こんなのじゃ……自分を変えたいのに。どうして……言えないの)
ダメ、ちゃんと喋らないと。自分の声で伝えなきゃ。大人だから、社会人だから。きちんと自分で……自分で。
そう思うのに、焦れば焦るだけ頭が真っ白になって声が出ない。なぜ?
(バカ!どうして……ただ少し喋るだけなのに……どうして私はこんなにもダメなの?)
もう、ダメだ……そう諦めてスケッチブックに伸ばそうとした手を、あたたかいものが包み込む。
――氷上さんの、手だった。