恋蛍~君の見ている風景~【恋蛍 side story】
ネェネェはあれを隠してこの島を出て行ったんだね。
奇跡を信じて。
だけど、奇跡は起きないとも思って、もうこの島には帰らないつもりで、出て行ったんだよね。


ニィニィはあの台風の日、びしょぬれで帰って来た時、書きかけのメッセージカードを握りしめて、泣いとりました。

ネェネェに残酷なことをしてしまった、と。
残酷な想いを胸に島を出て行かせてしまったんだ、と。


「おれの嫁さんになってくれませんかって書こうとしてたのにさ。届かんかった……陽妃に。もう遅いよね、もうこんなに時間が経ってしまったんだしさ。待ってくれてるわけないっさ」


まだ、いまでも、おれは陽妃のことが大好きなのに。


全部、全部、全部。
何もかもを思い出した、と。
この10年、おれは一体なにをしとったのか、と。

ニィニィは膝から泣き崩れました。

美波さ、いろんな人間の泣き声聞いてきたけど、男の人の悲鳴のようなあんな泣き叫ぶ声、あの日に初めて聞きました。


それから本島の大きな大学病院に2週間検査入院し、脳波だのMRIだのカウンセリングだのとそれはもう様々な検査をしましたが、どこの科からも「異常は認められず」とすぐに退院し、島に戻って来ました。
ただひとつ不思議なのは、記憶喪失だったこの10年間の記憶も全て思ったまま。

それからニィニィは必死に診療所を軌道に乗せ、美波とケイちゃんが看護師として一緒に働いとります。


本当はね、その退院して戻って来た時、ニィニィはその足ですぐにネェネェを迎えに行きたかったはずです。
この時代だもんね、連絡くらい電話でも手紙でも、手段はいくらでもあったんだけどさ。

でも、実は、迎えに行くことも連絡することもできなかった理由があったのです。
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