蝉鳴く季節に…
………ありがとう?





「嘘、は封印しよう。これからは、ありがとうって言う事」







騙されたと思ってやってみなよ、杉山くんは言う。






ホントかな?

ホントにそれで、何か変わるのかな?






でも何か……ありがとうって言葉には、杉山くんが教えてくれる言葉には、不思議なパワーが込められている気がしていて………。






「うん、実行してみる」







私は、力強く頷いて笑ったんだ。

















ねぇ、杉山くん。





あの時はまだ、私は何にも知らなかったんだ。




知らなかったんだよ。







あなたがその身体に、抱えきれないものを縛り付けられているって事。







なのに、あなたはあまりにも前向きで、そして笑っていたから、私はあなたを誤解してしまっていたんだよ。




その誤解こそが、あなたが唯一、私についた嘘だったのかもしれないね?










それでもね、あなたが私にくれた言葉は、その誤解こそ遥かに越えて、今も…私の中に生きているんだよ。




波打つ心臓の鼓動と同じく、私の中で、まだ育ち続けているんだよ。









杉山くん。









あの時も、蝉が鳴いていたね……。









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