年下くんの電撃求愛
すれちがいざま、なぜか、ちくりと心臓が痛んだ。
けれどすぐに、わたしは自分のなかに生まれた感情を否定する。
……いやいや、ちくりってなんだ。
なんでちょっと傷ついてるの、わたし。なにもされなくてよかったじゃんか。
元どおり。今までどおり。最近起きたアレコレがなかったことになるなら、それが一番いい。
わたしたちは同じ職場の人間なわけだし、適度な距離を保てているのが一番だし、悩んで寝不足になるのも、変な妄想をして自己嫌悪におちいるのも、もう勘弁だ。
なのに、どうして。
どうしてわたしは、こんなにももやもやしているんだろう。
どうして振り返って、彼の後ろ姿を目で追ったりしてしまうんだろう。
どうして、さみしい、みたいな。わたしが失恋したみたいな気分にならなきゃいけないんだ。
苛立ちや心許なさ、表現しきれないいろんな感情が、どうして、という疑問とともに、いくつも浮かび上がる。
どうして。どうして。どうして。
……どうしてくれるんだ、前山さん。
「なんかー。急に、もういい!!とか怒鳴られて、出て行かれちゃってぇ」
翌日。支店長も主任もいない、お前が責任者だと仰せつかりましたその日。
昼休憩前、手薄状態の我が支店にて、大事件が起こった。
なんと、前山さんがお客様を怒らせ、怒りのおさまらないお客様が、ケア途中で帰ってしまったというのだ。
前山さんから報告を受けたとき、わたしは目をひんむいた。
そんなことは、前代未聞だったからだ。