年下くんの電撃求愛
いち、に、さん。スリーカウント迷ったすえ、わたしはぺこりと、鷹野くんに向かって頭を下げた。
「よ、よろしくお願いします……」
「はい。下でタクシー拾いましょう」
かくして、わたしは鷹野くんと、顧客宅を訪問する運びとなってしまった。
けれど、二人きりだとか、気まずいとか。そんなことを考える余裕は、もはやなかった。
わたしたちは、早急にビルを下り、道路に向かって大きく手を挙げ、一台のタクシーを止めた。
あわただしく乗り込み、アパートの住所を伝える。
「急いでください」と頼むと、運転手はすぐさま、車を走らせはじめてくれた。
あああ、胃がいたい……。
これからピンチに直面しにいくというのに、わたしのヒットポイントは、もうすでにゼロに近かった。
シートに背をあずけることもできず、わたしは前かがみになり、指を組み合わせた祈祷のポーズをとる。
「本河さん」
鼓動と同じく、景色の流れが速まってきたとき。
隣に座る鷹野くんに名を呼ばれ、わたしは力なく顔を上げた。
そんなわたしに、鷹野くんは冷静なトーンで、「一つお願いがあるんです」と告げる。
「謝罪したあと、俺を吉島さんの担当にしてくれませんか。前山から移行する、という形で」
「え……?」
混乱している状況での急な申し出に、わたしは目をまたたかせる。
そりゃ、新人の担当の割り振りは、もともとわたしが行うことになっているから、大丈夫っちゃ大丈夫だけど……。
返事できないでいると、鷹野くんはゆったりとした笑みをくちびるにたたえて、「任せてください」と言いきった。
「……ちょっと、考えがあるんです」