年下くんの電撃求愛

「本河さん」

「へっ!?」


鷹野くんの呼びかけに、はっと我にかえる。

思いっきり不躾にガン見してしまっていたことに、そのとき気づいた。


「こっち向いてくれてるのは嬉しいんですけど、そんなに見られると、穴が開きます」

「あ、穴……そうだよね、開くよね、ごめん……」

「ふっ」


しどろもどろになって謝ると、鷹野くんは楽しそうに破顔した。

笑みをくちびるに残したまま、お皿の隅で、余りなくきれいにジェノベーゼのパスタを巻きとる。

そして、「本河さん」とやわらかく、わたしの名前を呼んだ。


「な、なに?」

「そういや俺、重要なことを聞いていませんでした」

「……重要なこと?」

「はい。本河さんて、どういう男性が好みなんですか」

「え……えっ!?なんで!?」

「作戦を立てたいので、参考に是非」

「さく……!?」


さらりと髪を揺らし、同じくさらりと、強烈な台詞を放ってきた鷹野くん。

くちびるの端を数回引きつらせながら、わたしはなんとか、当たり障りのない答えを口にする。


「えー……や、優しい人、かな?」

「そうですか、頑張ります」


……頑張らないでください恐ろしいから。

わたしがよっぽど複雑そうな顔をしていたのか、鷹野くんは、ぷ、と吹き出して笑った。

鷹野くんて、こんな風にも笑うんだ。

作られたものじゃない、素の笑顔を目にして、すこしだけ緊張がほぐれていく。


「……あ」

「はい?」

「そうだ。鷹野くんて、元美容師だったって本当?」

< 62 / 120 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop