年下くんの電撃求愛
無視され、嫌な目を向けられて続けても、平気なふりをしていた。
けれど本当は、かなり堪えていた。勉強できずに、無為な時間を過ごさねばならないことが悔しかった。
その心が、救われた気がした。
緊張や焦燥、自分のなかにあった負の感情を全部、優しく包んでもらったような気がした。
『ありがとう、ございます……』
シャンプーが終わってからこっそりと礼を告げると、その人は困った顔でにこりと笑い、『こちらこそありがとうございます』と言ってくれた。
彼女の耳は、まだ、赤いままだった。
決して器用ではない……けれどやわらかく、深い思いやりのある大人の行動を、俺はそのとき、初めて、受けた気がした。
その一件があってからというもの、いびりはずいぶん大人しくなり、俺は無事、実習に受かることができた。
実習が終わってからも、俺はずっと、黒髪の彼女のことを忘れられなかった。
たくさん、彼女にまつわることを考えた。
俺より年上の、大人の女性だった。
あの店の近くに住んでいるのか。どんな仕事を、しているのだろうか。
媚びのない、さっぱりした顔立ちだった。さっぱりといっても冷たい感じじゃなくて、笑うと愛敬があって、可愛らしい感じがした。
姿勢が綺麗だった。カット中、ずっと背筋が延びていた。
こちらこそありがとうございます、と言ってくれた声は、とても優しかった。
染めたことがないのか、毛先まで痛みの少ない髪だった。
ある程度太さがあって、健康的な。色抜けのない、真っ黒な髪だった。