甘いささやきは社長室で



「マユちゃん、仙台ついたらどこの取引先から回るか決めてある?」

「えぇ。とりあえず、契約先の農家さんから回って、市内の飲食店へ……最後の取引先が終わるのが20時の予定なので結構ハードスケジュールです」

「わーお。まぁ滅多に来られないし仕方ないけどねぇ」



そう、今日の出張の目的は食材を生産する農家や卸先である飲食店など取引先を回るため。

定期的に営業部の社員たちも回ってはいるけれど、社長である自分が挨拶に行くのも務めと、桐生社長はこうして各地を訪ねているのだそう。



今日行く先をまとめたリストを手渡すと、桐生社長はさっと目を通し納得する。



「あーあ、折角マユちゃんとふたりでお出かけなのに仕事なんてついてないなぁ」

「仕事じゃなきゃ出かけませんけど」

「えー?あ、ちなみにホテルの部屋って一緒だったり……」



そこまで言いかけた桐生社長に『するわけがないでしょう』と言うようにキッと睨むと、彼は苦笑いで言葉を飲み込んだ。



仕事は仕事、そう思って来たけれど……不安だ。

こんな人とふたりで大丈夫だろうかと、小さくため息をついた。




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