甘いささやきは社長室で



「……すみません、少し休んでから行くので先戻っていてください」



下を向いたまま言うと、頭上からは「はぁ」と小さなため息が聞こえた。



「キミねぇ……こんな夜道に女の子ひとり置いて行けるわけないでしょ」

「でも、」

「動けないなら運んであげるよ。お姫様」



そうキザなセリフを笑い混じりで言ったかと思えば、突然私の背中と足元に腕を回し、自然な手つきで私の体を持ち上げる。



「わっ!?」



そして、驚く私を気にとめず、お姫様だっこで歩き出した。



な、なにをいきなり……!?

戸惑いながらも、その腕に抱き上げられたまま動くことはできない。



ちら、と見上げると、すぐ目の前には前を見る整った顔がある。



……たくましい、体。

しっかりと支える腕と、よろけることもなく歩く足。包むような彼の香りが、以前抱き上げられた時よりも更に強く、心臓をドキ、と鳴らす。





< 122 / 215 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop