甘いささやきは社長室で
「……すみません、少し休んでから行くので先戻っていてください」
下を向いたまま言うと、頭上からは「はぁ」と小さなため息が聞こえた。
「キミねぇ……こんな夜道に女の子ひとり置いて行けるわけないでしょ」
「でも、」
「動けないなら運んであげるよ。お姫様」
そうキザなセリフを笑い混じりで言ったかと思えば、突然私の背中と足元に腕を回し、自然な手つきで私の体を持ち上げる。
「わっ!?」
そして、驚く私を気にとめず、お姫様だっこで歩き出した。
な、なにをいきなり……!?
戸惑いながらも、その腕に抱き上げられたまま動くことはできない。
ちら、と見上げると、すぐ目の前には前を見る整った顔がある。
……たくましい、体。
しっかりと支える腕と、よろけることもなく歩く足。包むような彼の香りが、以前抱き上げられた時よりも更に強く、心臓をドキ、と鳴らす。