甘いささやきは社長室で
仙台出張から戻って、一週間。私は最近ぼんやりとしていることが多いと、自分でも思う。
その理由は、もちろんというかなんというか……桐生社長のせい。
ちら、と見た社長室側の壁。そこからかすかに聞こえてくる声は、桐生社長とたずねてきた取引先の人のもの。
現在桐生社長はその取引先との打ち合わせの真っ最中。
『秘書室で控えてて』と言われた私はひとり事務仕事でもしようと席に着いたわけだけれど……気づけば考えてしまうのは、彼のことばかり。
あれこれと考えだすと、考えすぎてしまって、頭を悩ませている。
「はっ!電話!」
そういえば着信音が鳴っていたんだった!
思い出し、慌ててデスクの上のスマートフォンを手に取ると、まだ鳴り続けているそれの通話ボタンをタップした。
「はい、真弓です」
『あ、お疲れ様です。総務の佐藤です。今エントランスから連絡がありまして、桐生社長にお客様とのことなんですが……』
お客さん?取引先かな?
平日の昼間に会社に訪ねてくるといえばそうだろうと、予想すると「今向かいます」と電話を切る。
どこの会社だろう、予定では今日たずねてくる取引先は、今来ている会社のみのはずだし……。
とりあえず、自分が行って話を聞こう。それから応接室に通して少し待ってもらって……。
そう考えながら、私は秘書室を出て、エレベーターで一階へ降りるとエントランスに向かった。