甘いささやきは社長室で



「お待たせ致しました……」



言いかけながら見れば、そこに立っていたのはひとりの女性。

ベージュと赤のバイカラーのワンピースを着た、小柄な彼女は、栗色のロングヘアを揺らしてこちらを見た。


切りそろえた前髪の下にある私を見る目はパッチリとしていてかわいらしく、肌も透明感があって綺麗な白色だ。



あれ、この人どこかで見た気が……。



記憶の端にうっすらと見た記憶があるんだけど、どこで見たかが思い出せない。

取引先の相手ではなく、私の知り合いでもない。えーと、それじゃあ、うーんと……。



顔に出さないように必死に考え、ふと思い出した。

彼女を以前見かけたのも、この場所だったこと。

そしてその時、彼女の隣には桐生社長がいて、それを見たほのかから出たひと言は『婚約者』、だったこと。



そうだ、この人……ボヌール・竜宮の娘で、桐生社長の、婚約者だ。



「あっ……すみません、お忙しい中いきなり」



か細い声に我に返り、挨拶もまだだったことを思い出し頭を下げた。



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