甘いささやきは社長室で



「いえ、とんでもない。申し遅れました、桐生社長の秘書の真弓と申します」

「あっ、あなたが『マユちゃん』さんですね!祐輔さんから少しお話はうかがってます」



『マユちゃんさん』って……。

なんだか気の抜けた響きだなと思うと同時に、桐生社長が私のことを彼女に話していたことを知る。



……まぁ、『無愛想な秘書がいる』とか、そんな程度の話しかしてないんだろうけど。

大きな取引先の娘で、婚約者。そんな彼女の前となればあの男も猫だってかぶるだろう。

そう考える私の頭の中など全く気づく様子もなく、彼女はにこにことかわいらしい笑顔を見せて小さく頭を下げた。



「こちらこそ、申し遅れました。竜宮花音と申します。いつも父をはじめ、ボヌール・竜宮がお世話になっております」



ゆっくりと柔らかな声で言う彼女……花音さんからは、気品がただよう。



「私も父の会社で食材の卸関係の仕事を学んでいまして……それで、今日はちょうど近くまで来たついでに、祐輔さんにお仕事のお話でもと思ったのですけど。お電話しても出られなかったので、来てしまいました」



花音さんは自分に対して困ったように笑いながら「いきなりすみません」と付け足す。

私は彼女のようににこにことは出来なくとも、冷たい言い方になってしまわないように柔らかな言葉遣いを心がけて言った。


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