甘いささやきは社長室で
桐生社長と付き合ってから、私は事情を知っている三木さん以外の人には、彼との関係を秘密にしている。
というのも、元々私が抱いていたイメージ通り、『女好き』『チャラい』と言われている彼。
実際それが仕事のためだったとはいえ、知らない人はそのイメージしかないだろう。
そんな中で『秘書を恋人にした』となれば、当然周囲は『やっぱり部下に手出しをした』といった目で彼を見るようになってしまう。
社長が社内でそういう目で見られるのは、秘書としても不本意だし、恋人としても、いやだ。
それならば黙っているのが一番ということで、誤魔化しているわけだけれど。
「……ただの仕事相手、ねぇ」
「え!?わっ、桐生社長!?」
オフィスを出てすぐ聞こえた声に顔を向ければ、そこには腕を組み壁によりかかり立つ桐生社長がいた。
私と部長の話を聞いていたのだろう。その顔は不機嫌そうに私を見る。
「ど、どうされたんですか?社長室にいるはずじゃ……」
「三木に用があって一旦降りてきたんだけどね。三木には会えないし絵理から嫌な言葉は聞くし……散々だねぇ」
笑っているけれど笑えていない目で言うと、歩き出してしまう彼に、私は慌てて早足で追いかける。