甘いささやきは社長室で




「……それくらい彼女がモテるって聞いてるのに、恋人として守ることも出来ない自分が、もどかしい」



背中を向けて、彼がつぶやく言葉。

その言葉が、今日の不機嫌の理由のすべてであることをようやく理解した。



私が周囲に言われていることを気にして……だからこそいつも以上に、隠したこの関係に苛立ちをあらわにしていたんだ。



……バカな人。

キザな台詞も甘い言葉も、いつだって平気で言ってみせるくせに、肝心な言葉はこうして目も見ずに言うなんて。



子供っぽいところも、めずらしい不器用なところも、恋人という関係だからこそ見られる姿。



「……前にも言ったじゃないですか。私はあなたのことを、社員の皆に『やっぱり部下に手を出す軽い男だったんだ』と思われるのがいやなんです」

「僕は別に、絵理が僕のだってちゃんと示せるなら、どう思われようと構わない」



私が彼のものだと、人前では示せない。

けれど、その心にも示せていないと感じさせてしまっているのなら。



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