甘いささやきは社長室で



「……祐輔さん」

「え……?」



不意に呼んだ名前に、驚いたようにこちらを向く顔。

その瞬間、隙ありと言わんばかりに、私は彼の顔を両手でつかんで、自らそっとキスをした。



唇が触れるだけの、小さなキス。だけど私からの初めての、精一杯の勇気。

そして両手で包んだままの彼の顔をじっとまっすぐに見つめる。



「……私は、あなたのことが好きです。だから、周りにあなたのことを悪く言われたりしたくないんです」



好きだよ。こんなにもあなたのことばかりを考えてしまうほど。

その心が望むことよりも、あなたを悪く言われたくないとか、ワガママな感情を優先してしまうほど。



だから、心配しなくていいんだよ。

私にはあなたしか見えていないんだよ。



そう伝わってほしくて、触れた唇と発した言葉に、祐輔さんは驚いた顔を見せた。

かと思えば頬をかあ、と赤くして、伸ばした腕で私を抱きしめた。



力強くたくましい腕に身をあずけると、その手は愛しそうに力を込める。



「僕だって、絵理が好きだよ。大好きだ。だからこそ、他の男に触れさせたくなんてないし、出来るのなら見せたくもない。ずっと抱きしめて、腕の中に隠しておきたい」

「……それはちょっと困ります」

「それくらい好きなんだから、仕方ない」



そう言って私の額、頬、といたるところにキスを落とす。


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