甘いささやきは社長室で



「なぁ、秘書さんもそう思うでしょう?」

「えっ、あー……」



私に話題を振られるとは。と一瞬驚いてしまうものの、ここは話題を変えるチャンスかもしれないとも思った。



「……私は、社長のご結婚より、自分のほうが深刻なんですよね」



ぼそ、とつぶやいた私に、桐生社長は『いきなりなにを』と問うようにこちらを見る。



「ん?そうなのかい?」

「えぇ、独身で彼氏もなく、出会いもないもので。社長のご結婚の話より自分の人生を考えるほうが必死なんです」

「あはは!そうかそうか!それならうちの社員を紹介してあげようか!」



愛想笑いをしながら自虐っぽく言ってみせた私に、オーナーは笑いながらそちらの話題に乗った。



よかった、話題は逸れたっぽい?

自分の独り身をネタにするなんて、普段はあまりしないし、それを笑われるのも複雑だけど……。

でも、笑えていない彼の笑顔を見る方が、なんだか少し苦しい。



それなら、その心が少しでもラクになるように努めよう。そんな思いで話を続けた。




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