チェロ弾きの上司。

うどんを食べ終わり、あたしが薬を飲んでいると、真木さんは後片付けをしてくれた。
ほんとに意外。

「望月は何か飲むか」

「白湯で結構です」

「はっ?」

もしかして、“白湯(さゆ)”、通じなかったんだろうか……。

「あの、お湯をください」

「……変わってるな」

そりゃ真木さんがお湯だけ飲むはずないか。


真木さんは1人で紅茶(ティーバッグだけど)を淹れて、ローテーブルのあたしのはす向かいに座った。


今までと違う、重い雰囲気。
今日来た本題だろう。

「会社、辞めるつもりか?」

……来た。

「……処分は覚悟しています」

「処分はしない。されるとしたらオレだ。この間の発言は明らかに、」

「そのことは、もう……取り消してくださったので、どうこうするつもりはありません」

「じゃあ、お前個人として、辞めたいか、辞めたくないか、は?」

「……辞めたくは、ありません……」

「それじゃ、なぜあんな細かい業務リストとマニュアル作った? てっきり引き継ぎ資料置いて辞めるつもりなのかと思っただろうが!」

ひゃー、細かい仕事して怒られた。理不尽な。

「あたし1人がいなくなって回らなくなる会社って変じゃないですか。病欠した時や自分の身に何かあった時のために、会社に迷惑かけないようにマニュアル作っておいてるんです。今までにもあれで佐倉さんとかに仕事お願いしたことありますよ?」

あたしが言うと、真木さんは明後日の方を向いて、舌打ちした。

「あんの女狐め……」
低くつぶやく声が怖い。
佐倉さん、真木さんに何を言ったんだろう?
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