チェロ弾きの上司。
「次、これ」
三神さんの声がして、聞こえ始めたのは、チャイコフスキー交響曲第5番第4楽章の冒頭部分。
あたしが鼻歌を歌ってたのを真木さんに聞かれたメロディだ。
ヤなこと思い出した。
でも、そんなネガティヴな感情は、すぐにかき消された。
上手い……!
朗々と、という表現がぴったりなくらい、ちゃんと“歌ってる”。
情感たっぷりなビブラート。
強弱がはっきりした、メリハリある演奏。
しかも、弱い音でも貧弱にならない。
音量だけじゃなく、音色(おんしょく)もコントロールされてる。
ここは弦のユニゾンでヴァイオリンも同じメロディを弾く。
こんな風に弾いてみたい……。
フレーズが終わると、ギャラリーから再び感嘆のため息。
「じゃ、次これ」
「お前、遊んでんだろ」
三神さんの声に応じたのは、チェロの人なんだろう。
ほんとに三神さんと仲良しなんだ。
「オーディション。腕がにぶってないかの確認」
「ふん」
と言って弾き始めたのは、今度の定演の前プロ、グリンカ『ルスランとリュドミラ』序曲、冒頭からの速く細かいパッセージ。
正確な音程。歯切れのよい音。
わー、難なく弾きこなしちゃったよ……!
ここも弦のユニゾン。
あたしも苦労してる箇所なのに。
ギャラリーがひそひそ言う。
「なんか自信なくすわー」
「あれは比べない方がいいレベルだよ」
「そうそう。コンマスクラスと思ってさ」
次の定演本番まであと1ヶ月ないけど、この腕なら問題なく全乗りいけるな。(全曲弾くことです)
めでたいめでたい。
さて、自分もウォーミングアップしないと。