君に会う為に僕は眠る
 不意に、階段を上ってくる音がした。足音はだんだんと近づいてくる。勇太は足音に構わず、ゲームを続けている。足音は勇太の部屋の前で止まった。人の気配がする。
「勇太。御飯、ここに置いておくわよ」
母・美代子の声だ。ふと部屋の時計を見ると、もう18時半を回っている。勇太の口から大きな溜め息が1つ漏れた。実に不機嫌そうな溜め息だ。
「勇太、あなたもう30歳でしょ?いつまでもこんなことしてたら―」
「うっせーんだよ。クソババア。飯置いたらとっとと行けよ」
家中に響き渡るかのような勇太の怒号が美代子の言葉を遮る。同時に、近くにあった物を扉に向かって、その向こうにいるであろう母に向けて投げつける。突然の扉からの轟音に美代子の顔が一瞬恐怖に染まる。
「ご、ごめんね。御飯、食べるんだよ。母さん、ちょっと忘年会行ってくるから」
「勝手に行けよ。てめぇの忘年会なんて知らねぇよ」
再び勇太の怒号が家中に響き渡る。美代子は思わず肩をビクつかせる。
「なるべく早く帰るからね」
そう言い残すと、美代子は後ろ髪を引かれるような思いを感じながら、その場を後にした。廊下の床は酷く冷たく、美代子の身心をより寒々とした思いにさせた。
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