君に会う為に僕は眠る
 母の足音が遠ざかり、玄関の扉の開閉音を確認した後、勇太は自室の扉を少しだけ開け、食事の乗ったお盆を暗い部屋の中へと引きづりこむ。その様はブラックホールを彷彿させる。食事をお盆と共に呑みこんだその部屋は入り口をゆっくりと閉じ、再び斉藤家に静寂を与えた。
食事という名の配給を手に、勇太はテレビの前にある小さな机の前に腰をかける。小さく溜め息をつくと、酷く乱雑とした机の上に半ば強引にスペースを作り、その上に食事を乗せた。今日のメニューは白い御飯、唐揚げにサラダ、味噌汁、お茶、ご丁寧にデザートにイチゴまで用意されている。しかし、勇太にとっては食事の内容などどうでもよかった。興味がないのだ。空腹感を満たすことができれば、それでよかった。なんでもいいのだ。
「何か面白そうなアニメでもやってねぇかなぁ」
 机の上に無造作に置かれた、テレビのリモコンに手が伸びる。テレビをつけると、女子アナウンサーが寒そうに頬を赤らめながら、クリスマスツリーの前でレポートをしている姿がテレビモニターに映し出される。アナウンサーというより、アイドルのようにも見える。目鼻立ちの整った美人だ。
「ツリーの前ではイルミネーションを一目みようと、大勢の方々で賑わって―」
勇太は大きく舌打ちをすると、すぐさまチャンネルを変えた。しかし、時期が時期だけにクリスマスや、忘年会を取り上げる番組ばかりが目につく。また大きく舌打ちをした。
「どいつもこいつもクリスマス、忘年会かよ。くだらねぇ。あんな馬鹿みたいに騒いで、一体何が楽しいってんだ。マジくだらねぇ」
リモコンで乱暴にテレビを消すと、黙々と御飯を食べ始めた。味なんてほとんど分からない。自分が何を食べているのかさえ分かってないのかもしれない。そこまで見てないから。
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