君に会う為に僕は眠る
 次に勇太が気がつくと、目の前には田園風景が広がっていた。見覚えはないけど、どこか懐かしい風景だ。遠くの方に茅葺屋根かやぶきやねの小さな家も見える。昔話に出てきそうな家だ。なぜだか勇太は直感で"これは夢だ"と認識することができた。"明晰夢めいせきむ"というやつだ。
「おっ。やっと来たね」
不意に後ろから声がした。若い女性の明るい声だ。慌てて後ろを振り向くと、そこには同い年ぐらいの目鼻立ちの整った綺麗な女性が立っていた。あのアイドルもどきの女子アナウンサーも文字通り"顔負け"の美人だ。恋愛経験のない勇太の緊張感が一気に高まる。夢だと分かっていても緊張はするものだ。自然と胸の鼓動が早くなる。妙にリアルな夢だ。
「ど、どちら様、ですか?」
緊張で思わず吃る。使い慣れない敬語に一瞬戸惑ってしまう。
「やっぱそれ聞いちゃう?聞いちゃうよねぇ」
綺麗ではあるが、どこか不思議な雰囲気の女性だ。何やら考え込んでいる。
「"夢子"ってことにしといて」
「"しといて"って、どういう意味ですか?」
「いいじゃん。これって勇太の夢の中でしょ?だから"夢子"。可愛い名前でしょ?」
「なんで僕の名前知ってるんですか?」
「それよりさ―」
「話を逸らさないでください」
「細かいことは気にしないの。細かいことばかり気にする男はモテないぞ」
「大きなお世話です。それに、全然細かいことじゃないですし。むしろ、結構重要なことですし」
「まぁまぁ、そんなことは置いといて―」
「置いとかないでください」
「私と結婚して」
「は?」
「ん?」
「い、いや、ごめんなさい。今、なんて?」
「だから、私と結婚してほしいの」
 夢の中で突然現れた、"夢子"と名乗る謎の女性。そして、石像のように固まってしまう勇太。この夢は一体なんなのか、そして、この女性は一体誰なのか。勇太は頭の中で整理することができず、酷く混乱し、ただその場で呆然と立ち尽くしていた。
永遠にも思える沈黙と、一陣の風が二人の間を音もなく通り抜ける。風はどこまでも吹いていき、遠くの木々をいつまでも、静かに揺らしていた―。
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