不器用ハートにドクターのメス

「真面目に考えすぎだ。誰だって逃げたり、自分のいいように考えたりしてやってるもんなんだよ、仕事ってのは。俺だって……そりゃあ、オペは好きでやってるが、回診なんかは面倒だし、手を抜いてることだって、正直ある」


手術部を選んだのは逃げ道だったと。中途半端な志だと。

本当にやりたい仕事じゃないと思ってしまうことがあると……自分はあの時、たしかにそう口にした。

消極的な自分の過去の言葉に対して、神崎が今、一つ一つ、丁寧に回答を与えていってくれていることに、真由美は感激し、瞳を揺らす。


「申し訳ないって、言ってたな」


凪いだ低い声で、神崎が言った。

申し訳ない。それは毎日、真由美が心の中で繰り返してきたフレーズだった。

患者さんに申し訳ない。先生に、スタッフのみんなに申し訳ない。

職場に行く度に、オペに入る度に、真由美はずっと、自分を強く責めてきた。


「何も申し訳ないことなんかない。福原は懸命にやってるし、オペにつく度に落ち込めるのは、良いことだ」


その、真由美が自己を否定し続けてきたフレーズを取り払うかのように、神崎はしっかりとした口調で告げる。


「落ち込めるのは、逃げずに反省して、前に進もうとしてるってことだろ。本当にできない奴は、すぐに開き直るか周りのせいにしちまうもんだ。だから……」


しっかりと合わさった目線。

強い力を放っていた神崎の目が細まり、その目尻が下がるのを、真由美は、間近に見た。


「……お前は、大丈夫だよ」

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