不器用ハートにドクターのメス
帰りの車内で、神崎はBGMをかけなかった。
静かな落ち着いた空間の中で、神崎と真由美は、少し、また少しと、言葉を交わすことを繰り返した。
話した内容は、好きな曲についてだったり、犬派か猫派かといった、とても他愛のないことだった。
しかし、それらの会話は、仕事に関するものではない、プライベートな部分に踏み込んだものであった。
車が真由美の自宅に到着したのは、ちょうど太陽が沈みかけ、橙と藍色が混ざったような色が空に広がっている頃だった。
自宅に到着……とは言っても、車は家の真ん前ではなく、少しだけ離れた位置に停車していた。
家の前に停めてしまうと、父母が出てきて神崎を捕まえてしまう可能性が高いと踏んだ真由美が、そうしてくれるよう、神崎に頼んだのだ。
「今日は本当に、ありがとうございました……!!」
シートベルトを外したところで、真由美は神崎の方に体をひねり、声を上ずらせて感謝の意を述べた。
ありがとう、だけじゃない。真由美の中には、その後にもまだ、続けたい言葉がたくさん渦巻いていた。
たくさんの想いを、真由美は神崎に伝えたかった。
かけてもらった言葉が、とても嬉しかったということ。
お店を調べてくれて、自分に合わせてくれて、それも嬉しかったということ。
泣いてしまってごめんなさいという謝罪。
一日を、ずいぶん早く感じたということ。
ずっと大切にしたい一日になったということ。
その一日が終わってしまうことが、今、寂しいということ。
すごく、すごく楽しかったということ。