不器用ハートにドクターのメス
けれど、どの一つも口することができずに、真由美は神崎から、視線を逸らす。
目が合っただけで胸が苦しくなり、何かが自分の中で、爆発してしまいそうだった。
「……おー、こちらこそ」
真由美の感謝の言葉に、神崎が返答する。
オペ中に怒鳴っている時と同じ声であるにも関わらず、その声は優しく、真由美の心にじんわりと染み渡る。
「じゃあ、ゆっくり寝ろよ」
「あ……せ、先生も、ゆっくり、寝てください……!」
「はは、うん」
ぺこりぺこりと、何度も礼をしてから、真由美は神崎の車を降りる。
密室の空気とは温度を違える外気が肌に触れ、そのことが余計に、真由美の中に生まれた寂しさを、大きくしていく。
車のガラス越しでは、もう、神崎の顔はよく見えない。
車が、動き出す。
今日一日、たくさん、たっぷりと見た神崎の様々な表情が、真由美の頭を回り出す。
先ほど言えずに、喉でつっかえて消えた言葉が、今になって肺に舞い戻ってきたようで、ひどく苦しい。
『もっと、今みたいに話してくれればいい』
先生に、せっかくそう言ってもらえたのに。少しは話せるようになったかと思ったのに。
やっぱりすぐには変われないなぁ、情けないなぁ……と、真由美は切なく、胸を痛める。
どうして勇気を出して、言わなかったんだろう。思っていること。感じたこと。
だってもう、こんな風に二人きりになれることなんて、ないかもしれないのに。
明日からは、仕事上でしか、関わることができないのに。