不器用ハートにドクターのメス
その日、仕事が終わってから、神崎は駐車場ではなく、病院のロータリーに向かった。
ロータリーには、小型に中型、数台のタクシーが待機している。
昼間には、タクシー利用の見舞い客がいるためもっと台数が多いのだが、夜にはぐんと少なくなる。
だが、停まってはいることから、一応夜と分類されるこの時間にも、まだ需要はあるらしい。
「モアタウンまで」
停車していたタクシーのうちの一台に乗り込み、神崎は行き先を告げる。
モアタウンは、繁華街の一角にあるショッピングビルの名前だ。そのビルの近くの店で、神崎は二ヶ月ぶりに、堂本と飲む約束をしていた。
タクシー内は冷房がきつめに効いており、多少の肌寒さを感じる。
温度は考えものだが、運転手は有難いことに好みの無口な人間で、神崎はどっぷりとシートに背中を預け、車窓を流れる景色に目を向けた。
景色というよりも、見えているのは光の線だった。
辺りはもうすっかり暗くなっており、白っぽい建物の明かりや赤のテールランプが、筋を引いて流れて見える。
黒っぽい背景のおかげで、タクシーのガラスには、神崎の姿がしっかりと浮かび上がっている。
決して機嫌が良くはない、どこか浮かない表情の自分と、神崎は相対する。
……一体いつまで、福原のことを気にしているんだ。俺は。
そう思って息を吐き、ガラスに映る自分の顔から視線をはがすと、神崎は視線の先を、フロントガラスへと向けた。