不器用ハートにドクターのメス

これまでは、一人の女のことを特別気に留め、その女について考えるようなことはなかった。

考えたとしても、どう攻略しようかという、心が弾む類の内容だった。

それなのに、だ。

どうして福原に関してだけは、違っているのだろう。

攻略するための会話をするのではなく、ただ漠然と、話がしたいと思う。視線を合わせたいと思う。

避けられていて、それらができていない今の状況を、自分は面白くない、と思っている。

この感情は、一体何なのか。

自分にしては攻略するのに長引いているから、手の内におさめたという確証がなかなか得られないから……だから、生まれてくるものなのだろうか。

好きだと言わせられれば、気が済むのか?

それっきり、興味がなくなるのだろうか。


考えが全くまとまらないうちに、タクシーは目的の地に着き、停車した。

代金を支払い、タクシーを後にする。効きすぎていた冷房のせいか、外気を妙に暑く感じた。

暑い、というのは視覚的なものもあるかもしれない。

花金だからなのか、夜に繰り出した中心街には、これでもかというほどに人が溢れていた。

平日と比べて、一体何倍の人数なのだろう。

円滑に足を進めることができないわずらわしさに目を細めながら、神崎は面倒に思う。

外科医の仕事は、土日休みが多いものの、固定休でなくシフト制だ。

花金という概念はなく、平日休みも少なからずあるわけで。

だからこうして、どこもかしこも混んでいるような金曜の夜にわざわざ出かけるとなると、少しばかり損した気分になってしまう。

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