不器用ハートにドクターのメス
初聞きの人間にはただ憮然とした声でしかないのだが、長年兄を務めている廉次の耳には、すごく弱弱しく、切羽詰まった声として届いた。
せっかくの初恋を早急に諦めようとしている妹に、廉次は驚かされ、また同時に、真由美らしいなぁとも感じていた。
相談の内容が、恋愛を成就させるにはどうしたらいいかという類のものでなく、気持ちを消して普通に話せるようになるにはどうしたらいいか……だなんて。
妹からのまさかの恋愛トークにペースを崩していた廉次だが、ここでやっと落ち着きを取り戻し、いつものトーンで尋ねることができた。
「どうして?」
「……え?」
「どうして消さないと、だめなんだ?」
廉次がそう言うと、真由美ははっと、アルコールで火照った顔を上げた。
「だ、だって……身分?みたいなのが、違いすぎるし、み、身の程知らずっていうか……」
「べつにそれを、相手に言われたわけじゃないんだろ?」
10個上のイケメンドクター。
たしかに恋愛初心者の真由美にはハードルが高いかもしれないが、それでも我が妹には、満足のいく初恋をしてほしい。
廉次はそう考えながら、自分の経験にも思いを馳せる。
廉次自身も、今の奥さんと何事もなくスムーズに付き合い、結婚したわけではなかった。
廉次の奥さんは、ミスなんちゃらに選ばれるほどの美貌の持ち主で、4つ年上の高嶺の花だった。
当時、周りからは「絶対無理だろう」と言われていたし、実際、最初に告白したときに本人からも「あり得ない」と言ってフラれていた。