不器用ハートにドクターのメス

気持ちを抱くことに、罪悪感を覚えなくていいのだと。好きでいていいのだと。

自分以外の人間からそう言ってもらえたことで、胸のつかえがとれたようだった。

今まで生きてきた23年間、誰かを好きだと思えた経験が、真由美にはない。

だからこそ、好きになることは、それだけで奇跡だと。お兄ちゃんが言っていた通りだと、真由美は思う。

血が一気に巡る感覚や、心臓が肋骨を打つ感覚。

ふわあっと地面から足が浮く感覚。目と鼻の奥がツンと痛む感覚。

全部初めて味わう感覚で、それは全部、わたしが先生を好きになったからこそ味わえたものなんだ。

その感覚を自分から遠ざけてなくしてしまうのは、すごくもったいないことだと、真由美はそう、思い直していた。


『避けてしまいそうになるんだったら、好きな人と関われるせっかくのチャンスなのにもったいないって、勇気出せって、自分を励ましてやればいい』


兄からかけてもらった言葉を思い出し、もう一度、真由美は心に決める。


……神崎先生に、挨拶をしよう。


罪悪感を取り除いて好きの気持ちを認めた今、真由美は、神崎に会っても逃げずにとどまっていられるような気がしていた。

夢で見たように、自分から声をかけよう。

そうしたら、先生は、返してくれるだろうか。

「おはよう」って、琴線をふるわす低い声を、くれるだろうか。



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