不器用ハートにドクターのメス

真由美が家を出たのは、いつもより少し早い時刻だった。

ついつい猫背気味になってしまいがちな真由美だが、今日に限っては、顔と胸で空気を切って歩くことがてきていた。

おはようございます、おはようございます、と何度も繰り返して頭の中で予行練習し続け、元々いかつい顔がさらにいかつくなってしまうほど、気合は十分に満ちていた。


しかし、その気合いは、まったくもって空振ることとなる。


腹を括った今日この日に限って、真由美はなかなか、神崎に遭遇できなかった。

早朝の自習タイムに、神崎がひょこっと遊びに来るようなこともなければ、その後の朝礼にも、神崎は出席していなかった。

一度だけ昼過ぎに見かけたが、神崎は他のスタッフと忙しそうに話しており、話を終えるとすぐにきびすを返して歩いていってしまった。

そしてオペはそれぞれ個室に入って行うものなので、当然オペ中に会うこともなく……真由美はじれったい気持ちで、終業を迎えてしまったのだ。


オペの後もいろいろと雑用を済ませて時計を見てみれば、気がつくともう午後6時すぎ。

会えなかった、挨拶できなかった、という無念感に、真由美はがっくりと肩を落とした。

そして真由美は、あることに気づいた。

そういえば、いつもわたしを見つけてくれるのは、神崎先生の方だった……と。

会いに来てくれるのも、声をかけてくれるのも。気がつくとそばに立っていて、「なにしてんだ」と話しかけ、頭をくしゃっと撫でてくれた。

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