不器用ハートにドクターのメス

自分がいるから、居づらくさせてしまったのだ。わたしが山下さんを、追い出してしまったのだ。

引き止めたい、と真由美は思った。ここに居てくださいと、伝えたかった。

けれど、体は動かず、口は開かない。

怖いという思いが、どうしても脳内を占めてしまう。

怖い。間違って、何か気に障る発言をしてしまったらどうしよう。

今まで失敗し続けてきた経験が、真由美のマイナス思考を膨らませる。

けれどそのとき、ふいに真由美の脳裏に、ある言葉が浮かんだ。


『思ったことは言えばいい。福原が心ん中で思ってることは、相手への思いやりみたいなもんがちゃんとあって……全然間違ってないと、俺は思う』


それは、神崎からかけてもらった言葉だった。

真由美がずっと、一文字一文字大切に、心の中にしまっていた言葉だ。

その言葉をもらった時のことを思い出し、真由美は強く、くちびるを結ぶ。

あの時。先生が間違ってないと言ってくれて、わたしはすごく、嬉しかった。

話すのは苦手だけれど、怖いけれど……それでも、声に出してみたいと思った。

でもまだ、自分はそれを実践できていない。

先生がせっかく教えてくれたのに。励ましてくれたのに、わたしはまだ、少しの勇気も、出せていない。


「~あの……っ!!」


気が付くと、真由美は廊下に飛び出していた。

山下の背中に向かって、必死に呼びかける。その振り絞った声は、見事にひっくり返っていた。

突然大きな声を上げられ、山下は驚き顔で、真由美を振り返る。

< 196 / 260 >

この作品をシェア

pagetop