不器用ハートにドクターのメス
初めて向けられた山下の優しい笑みに、真由美はうっかり泣きそうになってしまった。
真由美の涙腺は、最近崩壊気味なのだ。ちょっとした心の動きで、すぐに涙が誘発されてしまう。
「なーに目ぇ潤ませてんのっ!」
破顔し、真由美の背中をばしりとたたいて、山下は明るい声で言った。
それは、二人の間にあった厚い壁が、綺麗に消え去った瞬間だった。
今までの冷戦状態がうそだったかのように、それからの時間、山下は快く、真由美に話しかけてくれた。
真由美が自分に反発しているわけではないと、また、一生懸命で不器用な本当の姿を知ることができ、山下の方も嬉しかったようだ。
真由美はあいかわらずしゃべりが劇的に下手くそだったが、山下の方は元来おしゃべりな性格らしく、二人の会話はスムーズに弾んだ。
山下は結構踏み込んでくるたちだったので、突然振られた恋愛トークには、真由美はかなりどぎまぎさせられた。
「あーっ、しゃべったしゃべった。ね、もうそろそろ仮眠しない?眠くなってきたわ」
そう言うと、山下は天井に向かって両腕を突き上げた。
体が曲線を描く、のんきな猫のような伸びだ。
伸びあがったまま、山下はふとその動きを止め、「あ」と声をもらした。
「えっ」
「今日やばいね」
……やばい?
山下の発言に、真由美はきょとんと、首を傾ける。
すると山下は、待機室に張られている勤務表を指さし、こう言った。
「今日の宿直、神崎先生だよ」
「……っ!」
その名前を聞いた瞬間、心臓が素直な反応を示してしまった。