不器用ハートにドクターのメス
今この時間、神崎が院内にいるということを、真由美は知らなかった。
先生のシフトを把握してしまうと、よけいに意識してしまう。そう思った真由美は、最近、意識的にドクターの勤務表を見ないようにしていたのだ。
「神崎先生ってさ」
山下の声に、はっと我に返った真由美は、あわてて顔を上げた。
伸びのポーズをやめた山下は、次は脚を前後に開き、アキレス腱を伸ばしにかかっている。
「オペ中は死ぬほど怖いけど、言うことが的確だよね。怒鳴り散らすだけのドクターもいるけどさ、神崎先生は、実力がちゃんとともなってる上での……って感じで。わたし実は、神崎先生のオペ入るの好きなんだ。かなり勉強になる」
「あ……」
「まあ、神崎先生の緊急オペは心臓に悪いから、勘弁だけどね」
山下の言葉に、真由美はぐらりと、心を動かしていた。
ホッと安心したときの感情と、ものすごく嬉しいときの感情が、ちょうど半分ずつ混ざって、真由美の胸を満たしていく。
……好きな人が誰かにほめられるって、嬉しいことなんだ。
また新たな気づきが、真由美の中に増えていく。
あたたかい気持ちでいっぱいになりながら、真由美は口を開く。
「……わたしも」
そこで一度、息を飲み込む。
再度、口を開く。
顔を上げて、しっかりとした口調で、言う。
「わたしも……すごく、好きです」
……先生。
とくん、と心臓が鳴ったのを感じ、真由美は心の中で、神崎に語りかけていた。