不器用ハートにドクターのメス
「横田一郎さん入ります!!」
ストレッチャーのローラーが忙しなく回る音と、張った声が響きわたる。
オペ室の自動扉が開き、ロケットのように勢いよく、患者を乗せたそのストレッチャーが、なだれ込んできた。
「気道確保完了済みです」
「了解。いくぞ、1、2、3!!」
救命の看護師によって運ばれてきた患者を、四人がかりでオペ室中心部のベッドに移動させる。
空気は慌ただしく、そして緊迫したものになる。
ここに患者が到着するまでに、オペ開始の準備は済まされていた。
数秒と置かずに、執刀医である神崎から、手短なタイムアウトがかかる。
「ただ今より、上行大動脈置換術を行う。予定出血量2000。メス」
「はい!」
器械出しとして隣についた真由美は、即座にメスを手に取り、神崎へと手渡す。
大動脈乖離は、心臓基部の一部の血管層が破損し、ものすごい勢いで血液が流入し、裂けていくという現象だ。
心臓が破裂したら、即死。一刻の猶予もない中、メスでの皮膚切開、そして全身麻酔が同時に行われる。
「メッチェン!!」
胸骨正中切開後、神崎が心膜を切り裂き、心臓を露出させる。
見れば、心臓から出る上行動脈に瘤ができており、血管が通常の1.5倍ほどに膨れ上がっている。
この部分の血管をまるごと、できるだけ早く、人工血管に置き換えねばならない。